「生き残った帝国ビザンティン」を読む


著者: 井上浩一
出版社:講談社学術文庫

ビザンティン帝国、すなはち東ローマ帝国である。西ローマ帝国は5世紀終盤に滅亡したのに、東ローマ帝国は15世紀半ばまで命脈を保った。 この理由を少しでも知りたかったというのが本書を手に入れた理由。

本書の始まりはコンスタンティノープルに遷都したローマ皇帝コンスタンティヌスによる。そして最初のキリスト教徒の皇帝ということからも、この東ローマ帝国はキリスト教国家としての色彩が極めて濃い。 だからかつての共和制ローマやローマ帝国とは、首都も支配地域も違えば、宗教面でも大きく違うということになる。しかしそれでも紀元前8世紀の王政ローマから続く正統なローマ帝国なのだ。その心の持ちようが面白い。




現在のイスタンブール(ビザンティウムやらコンスタンティノープルやら)を思えばいい。古代ローマが属州化して以降、たった2回しか国家が変わっていない。これは弱肉強食の大陸の交通の要衝にある国家として不思議すぎる。(厳密には十字軍国家のラテン帝国の支配時期も含まれるが・・・)
ローマ帝国(古代ローマや東ローマ帝国含む)→オスマン帝国(オスマン・トルコ)→トルコ共和国(現在のトルコ)

ユスティニアヌスの時にイタリアや北部アフリカを奪い返すなど旧ローマ帝国西部を取り返したり、7世紀に興ったイスラム教国に滅亡寸前まで追い詰められたり、イスラム教国セルジューク・トルコに大敗を喫してアジア領土を喪ったり、それでも異教徒とも国際国家らしく調和もしたり、ところがキリスト教徒の十字軍には首都を一度攻め落とされたり、それでも亡命政権で復活したり、最後はオスマン・トルコに攻め滅ぼされたり。とにかくまさに波乱万丈。

大学教授の筆なるわりに、非常に安易に読める歴史読み物になっているため、東ローマ帝国、ことに首都コンスタンティノープルの歴史を手早く知りたいならば、本書をお薦めしたい。

大項目のみの目次
・プロローグ 奇跡の一千年
・第1章 ローマ皇帝の改宗
・第2章 「新しいローマ」の登場
・第3章 「パンとサーカス」の終焉
・第4章 栄光のコンスタンティノープル
・第5章 苦悩する帝国
・第6章 ビザンティン帝国の落日
・エピローグ 一千年を支えた理念

(2012年10月記す)






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