「古代史はどうして謎めくのか」を読む


著者:関裕二
出版社:新人物文庫
副題:『日本書紀』に仕組まれた謎を解く73のヒント

目次

第1章 古代史迷宮入り事件…古代史はどうして謎めくのか
 出雲神話の謎…はたして出雲は実在したのか
 神と天皇の謎…不思議の国の王権
 天孫降臨の謎…なぜ南部九州に舞い降りたのか
 邪馬台国論争の謎…忘れられていた貴重な証拠
 神武東征の謎…神武東征は史実だった?
 祟る出雲神の謎…支配者が偶像に怯える謎
 前方後円墳と纒向遺跡の謎…解き明かされるヤマト建国
 謎に満ちたヤマトタケルの活躍…古代史の英雄の裏側
 倭の五王の出現とヤマト朝廷混乱の謎…なぜヤマトは半島の紛争に介入したのか
 五世紀のヤマト朝廷混乱の謎…暴君の出現と豪族の受難
 継体天皇擁立の謎…王朝交代はあったのか
 二朝並立の謎…矛盾する証言
 崇峻天皇弑逆事件の謎…六世紀の混乱の実態
 山背の大兄王一族(上宮王家)滅亡事件の謎…『日本書紀』のでっち上げた聖者伝説
 謎めく法隆寺再建・非再建論争…なぜ法隆寺は飛鳥様式なのか
 乙巳の変(蘇我入鹿暗殺)の謎…蘇我入鹿は本当に悪人だったのか
 大化の改新の謎…大化の改新はあった? なかった?
 蘇我倉山田石川麻呂滅亡事件の謎…入鹿を裏切った蘇我氏
 白村江の戦いの謎…中大兄皇子が招いた日本滅亡の危機
 壬申の乱の謎…古代史最大の争乱
 大津皇子謀反事件の謎…二上山に眠る悲劇の皇子
 不改常典の謎…唐突に出現した皇位継承法
 『日本書紀』編纂の謎…誰が正史を書かせたのか
 長屋王の変の謎…藤原氏に葬られた正義漢
 聖武天皇の謎の東国行幸…帝のご乱心の真相
 恵美押勝の乱の謎…藤原氏をあぜんとさせた暴君の最期
 宇佐八幡託宣事件の謎…なぜ道鏡は皇位を狙ったのか
 平安京遷都の謎…桓武天皇の焦り

第2章 女帝と山姥…激動の時代に現れた女傑たち
 山姥…縄文と現代をつなぐ女神
 卑弥呼…いわずと知れた邪馬台国の女王の知られざる正体
 台与(壱与)…卑弥呼よりも重要な女王
 神功皇后…邪馬台国論争の最後の切り札?
 推古天皇…飛鳥の「トヨ」の女王
 大々王…大々王という謎かけ
 斉明(皇極)天皇…飛鳥の政争に利用された悲劇の女性
 持統天皇…鉄の女帝の目論み
 額田王…天才万葉歌人の秘密
 元明天皇…物部氏の怒りに震え上がった帝
 元正天皇…藤原氏の暴走を許した女帝
 藤原宮子…父・不比等のつらい仕打ち
 光明子…藤原氏の女を演じきった反藤原氏の女人
 称徳(孝謙)天皇…天皇家を潰そうと企んだ女帝
 井上内親王…藤原氏に殺された悲劇の女人

第3章 謎の人物群像…古代史の謎を解くヒント
 神武天皇…なぜ神武東征の出発地は日向なのか
 長髄彦…身内に殺されたヤマト土着の首長
 武内宿禰…ヤマト建国の秘密をひとり背負い込んだ男
 崇神天皇…本当の初代ヤマトの大王
 上毛野氏…なぜ東国の雄族は出雲とつながるのか
 景行天皇…各地を行幸した異色の天皇
 応神天皇…波瀾万丈の生涯の秘密
 雄略天皇…ヤマトの伝統を潰した暴君
 武烈天皇…王朝交代を正当化するための偶像
 継体天皇…本当に新王朝の始祖だったのか
 物部守屋…蘇我氏との対立はウソだった?
 崇峻天皇…蘇我氏を悪役に仕立て立てるための偶像?
 山背大兄王…実在が危ぶまれる英雄
 蘇我入鹿…『日本書紀』が繰り広げた勧善懲悪の世界
 中臣(藤原)鎌足…知られざる英雄の正体
 孝徳天皇…七世紀の歴史の謎を解く最重要人物
 蘇我倉山田石川麻呂…乙巳の変の真相を握る悲劇の政治家
 天智天皇…民衆に罵倒された正義の味方
 天武天皇…『日本書記』によって正体を抹殺された英雄
 大津皇子…持統天皇にはめられた悲劇の皇子
 藤原不比等…日本を根底から覆した男
 高市皇子…後皇子尊に隠された謎
 藤原四兄弟…天国と地獄を見た四兄弟
 聖武天皇…藤原氏に抵抗した藤原氏の帝
 橘諸兄…藤原氏との因縁の対決
 行基…反骨の僧の正体とその活躍
 吉備真備…孤軍奮闘した反藤原氏の巨人
 藤原仲麻呂(恵美押勝)…天皇位を奪おうとした怪人
 道鏡…日本のラスプーチン
 桓武天皇…ヤマトの物の怪から逃れた帝




感想

古代史には謎が多い。日本書紀や古事記だけを見ても不可思議な記述が多いのに、更に別の資料を見れば矛盾も出てくる。
本書は神武天皇から桓武天皇までの時代の謎を広く浅く取り上げた一書となっている。
広く浅くというだけあって、関裕二の既存書を読んでいないと納得しかねるところも出てくるかもしれない。
そういう意味では関裕二の他の書籍を読んだことがある人向けなのかもしれない。特に藤原氏や蘇我氏についての著作を読んでいれば、 他の分野についても容易に楽しむことが出来るだろう。逆に本書で興味の扉が開かれるパターンもあるかもしれない。その場合は、 蘇我氏や藤原氏など各分野に特化した関裕二本を読んでみるのもいいだろう。
ただ一つ言えることは楽しむための読み物であって、本書は通史ではないということ。通史を知った上で、読むべきものだということだけは注意されたい。
通史とは別の見方も出来るんだということを楽しむための本なのだ。
なんと言っても、これだけ読むと、藤原氏や中大兄皇子、持統天皇は何と邪悪なんだろう。という通史とは正反対の感想が漏れてしまうだけである。
もっとも確かに奈良時代平安時代における藤原氏の所業と陰謀は通史を知るだけでも酷いもののため、本書を読むと、やっぱりとなるのかもしれないが。

意外に思えたのが基本悪者扱いされる道鏡、よもや物部氏だったとは思わなかった。
蘇我氏の評価はこの関裕二の影響などで私的には結構良いのだが、乙巳の変以後の蘇我氏が、まさか近江王朝に多く仕えていたとは思わなかった。
天武天皇がなぜ持統天皇と結婚したのか謎である。やはり天智と天武はあまりにも掛け離れているというのも気になる。
まぁ、色々古代は妄想の宝庫。特に壬申の乱以前の歴史は妄想し放題のようにも思える。本書も妄想が生んだ一冊なのかもしれない。しかしだから面白いとも言えるのだろう。
(2012年10月記す)






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