「蘇我氏の正体 日本書紀が隠そうとした真実」を読む


著者:関裕二
出版社:東京書籍

祟りという明確な古代人の思考を読み取るなどして、蘇我氏の正体を探るのが本書。
蘇我氏が完全な悪人扱いされていることについては少し考えれば非常におかしいことには気がつくのだが、なかなか何者かまではわからないものだ。
そもそも天武以前の古代史は謎が多すぎて、正しいものが掴みきれないものがあり(天武以前の通史は信用しがたい)、蘇我氏もその代表である。
私は蘇我馬子が大王を殺害していたり、蘇我蝦夷が大王の目の前で中大兄と中臣鎌子に殺害されたりしていることから察するに、蘇我氏とは大王家同様に、政権TOPの資格を持つ一大氏族の一つだったのではないかとも推論していたが、それはあくまで単なる妄想にすぎなかった。
だからこそ本書で示されたような的確な論証でその意外な正体を知らしめられると、いちいち納得してしまいそうなところもあるのである。もちろん全部は信用しがたいが、それは日本書紀とて同様であり、これだから古代史ロマンは留まるところを知らないと言えよう。

とにかく日本書紀の通史だけを全面的に信用するような石頭ではなく、また蘇我氏が本当に大悪人かどうか疑問に思うところが少しでもあったならば、本書などを読んで考えてに耽ることをお奨めする。
(2006年11月記す)






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