文庫版「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」を読む


著者:塩野七生
出版社:新潮文庫

文庫版で読んだため、27巻(上)、28巻(下)に相当する。

見開き要約

<27巻(上巻)>の見開き要約

ローマ人の物語――ローマの真の偉大さはインフラ(社会資本)の整備にあった。

古代ローマの歴史には多くの魅力的な人物が登場するが、もう一つ、忘れてはならない陰の主役が、インフラストラクチャーである。「人間が人間らしい生活を送るためには必要な大事業」であるとその重要性を知っていたローマ人は、街道を始め様々な基礎的システムを整備してきた。現代社会にとっても欠くことができないこれらのインフラは、すべてローマに源を発している。豊富なカラー図版も交え、ローマの偉大さを立体的に浮かび上がらせる。

<28巻(下巻)>の見開き要約

ローマ人の物語――街道、水道、教育、医療……すべての文明の礎がローマにある。

広大な版図に街道網を整備し、「インフラストラクチャーの父」とも讃えられる古代ローマ人。しかし、彼らが重視したのは、いわゆる公共事業的なインフラだけではない。教育や医療といった「ソフトなインフラ」においても、ローマは他の民族に先駆けて様々な制度を確立していた。「ローマによる平和」を人々が享受できた背景には、これらの社会基盤の充実があったのだ。一千年の栄華を誇った古代ローマ、その繁栄の秘密が明らかになる。




目次

<27巻(上巻)>の目次

カバーの銀貨について
はじめに
ローマ帝国主要街道網
巻頭カラー
アッピア街道
各地で築かれたローマ街道
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」
クラウディア水道
各地で築かれた水道
イタリア本国のインフラ
イタリア地図(ローマ時代/現代)
イタリアの遺跡
 カルタゴの金貨とローマの銅貨/円形闘技場(ボッツォーリ)/ハドリアヌス帝の別邸(ティヴォリ)/アウグストゥス帝の凱旋門(リミニ)
 トライアヌス帝の凱旋門(ベネヴェント)/ローマ時代のアゴラ(アクィレイア)/半円形劇場(タオルミナ)/円形闘技場(シラクサ)/ローマの国際港湾都市(オスティア)
ローマ近郊地図(ローマ時代/現代)
フォロ・ロマーノ
紀元前六世紀およびコンスタンティノス帝時代のローマ復元模型
ローマ市内の遺跡
 パンテオン/カラカラ浴場/チルコ・マッシモ/「真実の口」/コロッセウムとクラウディア水道橋復元模型/
 アウグストゥス霊廟/コロッセウム/ローマ街道沿いの墓碑/サン・セバスティアーノ門とマイル塚
ローマ市内の橋
ナポリ近郊地図(ローマ時代/現代)
ナポリ近郊の遺跡
 ポンベイ/エルコラーノ/カプリ島


第一部 ハードなインフラ
1 街道
ローマ街道網略図と各時代の万里の長城/ローマから南へ(街道の複線化)/ローマ街道の基本形/マイル塚/ローマ街道の断面図/
ローマ街道の復元想像図/共和政時代のローマ街道網/ローマ時代のトンネル/山腹を縫う街道の断面図


2 橋
ローマ時代の舟橋と木橋/「ボンス・ロングス」/ローマ時代の石橋/排水のしくみ/橋脚工事法/明石海峡大橋/
ユーロ紙幣に描かれたさまざまな橋/三種類の橋の図/街道・橋および水道に必要な用地の幅/


3 それを使った人々
カエサル、アウグストゥス、ティベリウスの肖像/郵便馬車/アルプス越えのローマ街道(ヴァランスからトリノ)沿いの諸設備/
アルプスを越える四つのルート/ローマ時代の旅行用の銀製コップ/銀製コップの展開図とカディスからローマまでの街道図/
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」/プトレマイオス地図/「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」部分(「アレクサンドロスが引き返した地」、山脈、森林)/
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」に収録されている主要六都市/「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」部分(ローマ周辺、ナポリ周辺)/
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」部分(ペルシア湾、ナイル河口)/「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」中の記号(「バジリカ」、チヴィタヴェッキア、シチリア島)/
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」中の記号(宿駅、温泉場)/ローマ時代の測量機器/旅人を描いたレリーフ


図版出典一覧


<28巻(下巻)>の目次

カバーの銅貨について
第一部 ハードなインフラ(承前)
4 水道
ローマ水道の模式図/ドムスでの雨水利用法/ボルタ・マッジョーレ/アグリッパ肖像/トレヴィの噴水/水源からローマまで/
ローマ市内の水道/水道の断面図/「カステルム」(水の分配施設)/共同水槽/共同水槽のあるボンベイの街角/鉛管の作り方/
ハドリアヌス防壁沿いの浴場遺跡/カラカラ浴場/浴室の温め方/ラオコーンの群像/「ファルネーゼの牛」

第二部 ソフトなインフラ
1 医療
イゾラ・ティベリーナ模型/アスクレピウス神像/コロッセウムの客席/診察する医師/ローマ時代の医学校所在地/
公衆浴場の様子/クサンテン軍団基地の軍病院

2 教育
ローマ時代のそろばん/学校での授業風景/公衆浴場の中庭

巻末カラー
属州のインフラ
スペイン地図(ローマ時代/現代)
スペインの遺跡
 イタリカの円形闘技場/メリーダの劇場/アルカンタラの橋/セゴビアの水道橋
北アフリカ地図(ローマ時代/現代)
北アフリカの遺跡
 ランベーズの四柱門(アルジェリア)/レプティス・マーニャの劇場跡(リビア)/ティムガッドの遺跡(アルジェリア)/カルタゴ郊外の水道橋遺跡(チュニジア)
ガリア(フランス・ドイツ)地図(ローマ時代/現代)
ガリア(フランス・ドイツ)の遺跡
 ニームの水道橋「ポン・デュ・ガール」(フランス)/ニームの神殿「メゾン・カレ」(フランス)/アルルの円形闘技場(フランス)/
 トリアーの門(ドイツ)/皇帝ネロの記念柱(マインツ/ドイツ)
イギリス地図(ローマ時代/現代)
イギリスの遺跡
 リッチブラの要塞/ドーチェスターの要塞跡/ハドリアヌス防壁(ノーザンバーランド)/パースのローマ浴場/セント・オールバンズの円形闘技場
ドナウ河流域地図(ローマ時代/現代)
ドナウ河流域の遺跡
 ゲルマニクス防壁沿いの要塞跡(アイニング/ドイツ)/トライアヌス橋の遺構(セルビア)/トライアヌス帝の戦勝記念碑跡(アダムクリシ/ルーマニア)/
 ブダペストの遺跡 (ハンガリー)/ディオクレティアヌス帝の宮殿跡(スプリト/クロアツィア)/「タブーラ・トライアーナ」(セルビア)
ギリシア地図(ローマ時代/現代)
ギリシアの遺跡
 アテネに建つハドリアヌス帝の門/「フィリッピの戦い」の記念像/コリントの浴場跡/フィリッピ近郊のエニャティア街道
トルコ(小アジア)地図(ローマ時代/現代)
トルコの遺跡
 アフロディシアスの競技場跡/アスペンドゥスの会堂/エフェソス遺跡/エフェソスの図書館跡
中近東地図(ローマ時代/現代)
中近東の遺跡
 カエサリアの海岸沿いを走る水道橋(イスラエル)/マサダの要塞を攻略するために作られたローマの基地跡(イスラエル)/列柱広場(ジェラシュ/ヨルダン)/バールベクの神殿(レバノン)
エジプト地図(ローマ時代/現代)
エジプト、キレナイカの遺跡
 トライアヌス帝の浴場(シャーハット/リビア)/トライアヌス帝の記念建造物(フィラエ/エジプト)/アレクサンドリアの劇場跡(エジプト)/ボンベイウスの柱(アレクサンドリア/エジプト)
アツピア街道の終点(プリンディシ)
図版出典一覧
参考文献


感想

王政、共和政、帝政を通じて古代ローマの際だつ特徴といえば、やはり本国だけでなく属州全国に張り巡らされた街道網と水道だろう。 これらは中世の後退したとしか思えない歴史を考えれば、古代の輝きを感じずにはいられない二大インフラと言える。 本巻では、それらのインフラを中心とした遺跡の写真も豊富に使われている。 特に驚いたのが、旅行地図の存在、排水まで考えられた街道と橋、郵便、現在でも流用されている水道といったところだろう。 繰りかえしになるが、古代ローマ帝国滅亡後の1500年とは一体なんだったのか、強く感じさせると同時に、彼らはどこへ行ってしまったのだろう と感慨に更けざるを得ないではないか。

(2013年7月記す)




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