文庫版「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」を読む


著者:塩野七生
出版社:新潮文庫

文庫版で読んだため、3巻(上)、4巻(中)、5巻(下)に相当する。

見開き要約

<3巻(上巻)>の見開き要約

ローマ人の物語――ローマに立ちはだかる地中海の大国カルタゴ。

紀元前三世紀後半、イタリア半島を統一したローマは、周辺諸国にとって無視できない存在になっていた。そのローマに、紛争絶えないシチリアの小国が救援を依頼。ローマは建国以来初めて、海を渡っての兵の派遣を決める。しかしそれは、北アフリカの大国カルタゴとの対決も意味していた――地中海の覇権を巡って争われ、戦争史上に残る大戦「ポエニ戦役」、その前半戦を描く。

<4巻(中巻)>の見開き要約

ローマ人の物語――不可能を可能にした男、ハンニバルの実像。

ローマを相手に思わぬ敗北を喫した大国カルタゴで、一人の青年が復讐を誓った。その名はハンニバル。スペインから象と大軍を率いてアルプスを越え、彼はイタリアに攻め込んだ。トレッビア、カンネ……知略と戦術を駆使し、次々と戦場で勝利を収める。一方、建国以来最大の危機に見舞われたローマは、元老院議員でもない若者スキピオに命運を託した――冷徹な筆致が冴える大戦記。


<5巻(下巻)>の見開き要約

ローマ人の物語――ハンニバルVS.スキピオ、二人の名将の運命。

一時はローマの喉元に迫る勢いを見せたカルタゴの将軍ハンニバルだったが、ローマの知将スキピオのスペイン攻略に恐れをなした本国から帰還命令を受ける。それを追うスキピオ。決戦の機運が高まる中、ハンニバルからの会談の提案が、スキピオの元に届けられた―― 一世紀以上にわたる「ポエニ戦役」も最終局面に突入。地中海の覇権の行方は? そして二人の好敵手の運命は?






目次

<3巻(上巻)>の目次

カバーの金貨について
読者へ
序章
第一章 第一次ポエニ戦役(紀元前二六四年〜前二四一年)
第二章 第一次ポエニ戦役後(紀元前二四一年〜前二一九年)
図版出典一覧


<4巻(中巻)>の目次

カバーの銀貨について
第三章 第二次ポエニ戦役前期(紀元前二一九年〜前二一六年)
第四章 第二次ポエニ戦役中期(紀元前二一五年〜前二一一年)
第五章 第二次ポエニ戦役後期(紀元前二一〇年〜前二〇六年)
図版出典一覧


<5巻(下巻)>の目次

カバーの銀貨について
第六章 第二次ポエニ戦役終期(紀元前二〇五年〜前二〇一年)
第七章 ポエニ戦役その後(紀元前二〇〇年〜前一八三年)
第八章 マケドニア滅亡(紀元前一七九年〜前一六七年)
第九章 カルタゴ滅亡(紀元前一四九年〜前一四六年)
「マーレ・ノストゥルム」
年表
参考文献
図版出典一覧



感想

ローマが一気に地中海を舞台にした覇権国家に駆け上がる様を描いたのがこの「ハンニバル戦記」である。 そのタイトルの通りと言いたいところだが、ハンニバルが登場するのは中巻の第3章〜第7章となっている。 ただそれ以後のローマに多大な影響を与えたと言う意味では革命的な戦術手腕を示したハンニバルの存在が大きかった。

第一次ポエニ戦役では、海軍という概念がほとんど無かったローマと圧倒的な歴史を持つ海軍国家カルタゴが激突するという展開。 しかし結果的にはローマの学習能力の高さを示し、シチリアやサルディーニャ、制海権も全て奪う形でローマの勝利となっていく。

第二次ポエニ戦役では、スペインを手中にしていたハンニバル一族が象やヌミディア騎兵を従え、アルプス越えでイタリアに侵入し、 ローマに怨みを持つガリア人をも傭兵に加えつつ、度重なるローマ軍との会戦に大勝を繰り返すという序盤の展開から始まる。 ハンニバルがカンネの会戦でローマ軍に圧勝した結果、ローマ同盟にもほころびが生じ、シチリアのシラクサ、カプアなど南部の同盟諸国の一部がカルタゴ側に回るなど の危機にも陥るが、ローマはその後はハンニバルとの会戦を避け、ハンニバル以外との戦いや持久戦に専念する戦術に出ることで少しずつ流れを取り戻していく。

スペインでは、あの有名なローマの英雄となるスキピオが父と叔父の仇とばかりに、年齢が足りないにもかかわらず例外的に軍を率いてスペインのハンニバルの弟達を蹴散らし、 更に超法規的に執政官に就任し、カルタゴの本拠地のアフリカにまで兵を進めるという離れワザ。 ハンニバルの最大の理解者がスキピオというのが何という運命の悪戯だったことか。そのスキピオがカンネの会戦の奇跡的な生き残りというのもまさに運命というしかない。

下巻はハンニバルにせよ、スキピオにせよ、非常に寂しい幕引きとなってしまう上に、カルタゴやマケドニアもやぶれゆく。

全体としてハンニバルに何人もの執政官を殺され、何万人もの市民兵が殺され、それでも国家としては最後はローマの勝利だったということがわかる。 ただ英雄スキピオ・アフリカヌスがいなかったらどうだったのだろう。確かに会戦を回避され、ローマ側の持久戦術を前にして 終盤の勢いの落ちたハンニバルを見ていると、ローマは最終的にも勝者だったようにも見えるが、スキピオなくしてはスペインのハンニバル一族の勢力打破が うまくいっていた保証はなく、その後にハンニバル本人との合流も果たせたかもしれないのだ。こればかりは歴史のIFということになるのだろう。

(2012年5月記す)




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