文庫版「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」を読む


著者:塩野七生
出版社:新潮文庫

文庫版で読んだため、17巻(一)、18巻(二)、19巻(三)、20巻(四)に相当する。

見開き要約

<17巻(一)>の見開き要約

ローマ人の物語――なぜ彼らは「悪」と断罪されたのか。

帝政を構築した初代皇帝アウグストゥス。その後に続いた、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四皇帝は、庶民からは痛罵を浴び、タキトゥスをはじめとする史家からも手厳しく批判された。しかし彼らの治世下でも帝政は揺らぐことがなく、むしろローマは、秩序ある平和と繁栄を謳歌し続けた。「悪」と断罪された皇帝たちの統治の実態とは。そしてなぜ「ローマによる平和」は維持され続けたのか。

<18巻(二)>の見開き要約

ローマ人の物語――若き皇帝カリグラを人々は歓迎したが……。

二代皇帝ティベリウスは、隠遁後もカプリからローマ帝国を統治し続け、皇帝としての職責を完璧に全うした。国体は盤石となり、それを受け継いだ幸運な皇帝が、カリグラだった。紀元37年、すべての人に歓迎されて登位した若き皇帝に、元老院は帝国統治の全権を与える。しかし「神になる」ことまでを望んだカリグラは愚政の限りを尽くす――。政治を知らぬ若者を待ち受けていたのは無残な最期だった。

<19巻(三)>の見開き要約

ローマ人の物語――帝政の維持に全力を尽くした歴史家皇帝の功績と悲劇。

50歳まで歴史家として生きてきたクラウディウスは、突然のカリグラの死により、帝位を継承することになった。カリグラは、わずか4年の在位の間に、健全だった財政と外政をことごとく破綻させていた。クラウディウスはまず、地に落ちていた帝政への人々の信頼を回復することから始め、問題を着実に解決していく。しかしこのクラウディウスには“悪妻”という最大の弱点があった。

<20巻(四)>の見開き要約

ローマ人の物語――あまりに人間的なネロの知られざる実像。

紀元54年、皇帝クラウディウスは妻アグリッピーナの野望の犠牲となり死亡。養子ネロがわずか16歳で皇帝となる。後に「国家の敵」と断罪される、ローマ帝国史上最も悪名高き皇帝の誕生だった。若く利発なネロを、当初は庶民のみならず元老院さえも歓迎するが、失政を重ねたネロは自滅への道を歩む。そしてアウグストゥスが創始した「ユリウス・クラウディウス朝」も終焉の時を迎える……。




目次

<17巻(一)>の目次

カバーの金貨について
ユリウス=クラウディウス朝系図
第一部 皇帝ティベリウス(在位、紀元一四年九月十七日-三七年三月十六日)
 カプリ島/皇帝即位/軍団蜂起/ゲルマニクス/公衆安全/緊縮財政/ゲルマニア撤退/ライン河防衛体制/東方問題
 /ゲルマニクス、東方へ/総督ピソ/ドナウ河防衛体制/ゲルマニクスの死/ピソ裁判/アグリッピーナ/砂漠の民/
 ドゥルイデス教/宗教観/災害対策/息子の死/安全保障/家族との関係/元老院との関係
図版出典一覧


<18巻(二巻)>の目次

カバーの銀貨について
ユリウス=クラウディウス朝系図
第一部 皇帝ティベリウス(承前)(在位、紀元一四年九月十七日-三七年三月十六日)
 カプリ隠遁/セイアヌス/アグリッピーナ派の一掃/セイアヌス破滅/ゴシップ/金融危機/最後の日々
第二部 皇帝カリグラ―本名 ガイウス・カエサル―(在位、紀元三七年三月十八日-四一年一月二十四日)
 若き新皇帝/生立ち/治世のスタート/大病/神に/快楽/金策/ガリアへ/ローマ人とユダヤ人/ギリシア人とユダヤ人/
 ティベリウスとユダヤ人/カリグラとユダヤ人/力の対決/反カリグラの動き/殺害
図版出典一覧


<19巻(三巻)>の目次</h3> カバーの金貨について
ユリウス=クラウディウス朝系図
第三部 皇帝クラウディウス(在位、紀元四一年一月二十四日-五四年十月十三日)
 予期せぬ皇位/歴史家皇帝/治世のスタート/信頼の回復/北アフリカ/ユダヤ問題/ブリタニア遠征/
 秘書官システム/皇妃メッサリーナ/国勢調査/郵便制度/「クラウディウス港」/
 メッサリーナの破滅/開国路線/奴隷解放規制法/アグリッピーナの野望/哲学者セネカ/
 ネロの登場/晩年のクラウディウス/死
図版出典一覧


<20巻(四巻)>の目次

カバーの金貨について
ユリウス=クラウディウス朝系図
第四部 皇帝ネロ(在位、紀元五四年十月十三日-六八年六月九日)
 ティーンエイジャーの皇帝/強国パルティア/コルブロ起用/母への反抗/治世のスタート/
 経済政策/アルメニア戦線/首都攻略/母殺し/「ローマン・オリンピック」/ブリタニア問題/
 アルメニア・パルティア問題/セネカ退場/ローマ軍の降伏/その間、ローマでは/外交戦/問題解決/
 歌手デビュー/ローマの大火/再建/ドムス・アウレア/キリスト教徒・迫害/歌う皇帝/ピソの陰謀/
 青年将校たち/ギリシアへの旅/司令官たちの死/凱旋式/憂国/決起/「国家の敵」
〔付記〕
 なぜ、自らもローマ人であるタキトゥスやスヴェトニウスは、ローマ皇帝たちを悪く書いたのか
年表
参考文献
図版出典一覧


感想

アウグストゥスが築きあげた帝政ローマの体制が整い、そして一時的に崩壊するまでの物語。

四冊を読めばティベリウスがいかに優れていたか、クラウディウスも無難にこなしていたかがよくわかるというもの。
もっともこれは一部後世の歴史家が除けば、ローマ世界を生きた人たちも一般人の認識も同様だったようではあるが。

そして同様にカリグラとネロがあまりに酷すぎる。カリグラは放漫財政と衆愚政治によって、ネロはクラウディウスを死に追いやった アグリッピーナという母親の血を引いていただけに、母に死へ追いやり、更には帝政ローマに多大に貢献したものを殺害した。

悪名高き皇帝たちというタイトルにはあるが、以上のようにカリグラとネロの悪名高さはともかくとして、ティベリウスなどは ある意味、アウグストゥスの青写真を盤石にしただけではなく、アウグストゥスの過ちすらもリカバリするほどの活躍だったといえよう。 クラウディウスもカリグラの悪政をリカバリしたという意味では貢献度は高く、悪名を与えたタキトゥスらの歴史家や後世の キリスト教徒たち(ティベリウスたちは生まれたばかりのキリスト教徒の理解の対極に位置する多神教徒)に対する強烈な皮肉が本書のタイトルになっているにすぎないのは本書を読めば一目瞭然なのだ。

紆余曲折のローマ序盤期について概略を知るには恰好の書であるのは間違いないだろう。そしてネロ死亡後も気になるので次も読まずにはいられないという。 (2013年1月記す)




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